スンダランドを知れば見方が変わる

「南スマトラを流れる川は西カリマンタンのカプアス川と同じ水系だった」

ベタやリコリスの愛好家の方々でスンダランド(スンダ大陸)を知っている、聞いたことある方はいるだろうか?
聞いたことはあってもそれが魚と何の関係があるのか分からないという方もいるかもしれない。
しかし陸地を移動できず、水、河川に縛られる淡水魚において、実はこのスンダランドの河川がベタやリコリスの分布や種分化に大きく影響を与えている。
その事を頭の片隅に入れておけばこのエリアのアナバンテッドの見方が変わってくる。特に僕のような現地を考察する採集人にとっては必須の基礎知識といえるものなのです。

スンダランドとは
7万年前~1万4千年前の東南アジア陸地部分
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スンダランド時代、マレー半島、スマトラ、ボルネオ、ジャワは全て一つの島であった。
その中に大河川が4つあり、上の地図の中でその4つの河川に番号が振られている。
冒頭の「南スマトラを流れる川は西カリマンタンのカプアス川と同じ水系だった」のは②の水系になる。
なんと現在の西カリマンタン州カプアス水系と南スマトラ州やジャンビ州の河川はヴュルム氷期のスンダランド時代には一つの水系だったのだ。
今から1万2千年ほど前から海面は徐々に上昇し、5千年前ほどには現在の形になりスンダランドは姿を消した。ピラミッドが4500年ほど前の時代だから、さほど古い話でもない事が驚きなのだ。

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上の図は現在の地図にベタ・リコリス種の分布を示したもの
Parosphromenus ornaticauda  Parosphromenus parvulus
Parosphromenus linkei  Parosphromenus filamentosus
なぜカプアス水系のP.オルナティカウダが飛び地的にKetapang(パワン水系)にもいるのか?
なぜ近似種であるP.オルナティカウダとP.パーブルスは種分化しているのか?
なぜP.リンケイとP.フィラメントススは複数の水系に生息し、両種はどのように隔てられているのか?
その答えは全てスンダランド時代の河川にある!
現在とスンダランドの地図を重ねてみましょう。カリマンタンの水系が昔どのようになっていて、その種が現在なぜそこに分布しているかが分かるでしょう。↓
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Betta cracens ジャンビ州、南スマトラ州、向かいのバンカ島北西部に分布
現在でいう南スマトラ州ムシ川がバンカ島の北西側を通り抜け、ジャンビからの支流と合流(河川②)
B.クラセンスの分布とピッタリ合致。
Betta persephone(B.miniopinna)マレー半島西部、スマトラ北部、ビンタン島、ジャンビ州
現在でいうマラッカ海峡を流れる河川流域(河川④)がB.ペルセフォンの生息分布となる。
ただし例外的にジャンビにもB.ペルセフォンが存在する。(河川②)

カリマンタン島の「U」「S」という表記はU=Betta uberisS=Sphaerichthys selatanensisを表していて、どちらの種も中央カリマンタン(河川①)で知られていましたが、僕の調査で西カリマンタンのKetapangエリア(河川②)にも存在することが証明されてしまった。
このようにスンダランド時代まで河川の歴史を遡ってみても、その境界線上にある河川では例外的に両エリアにまたがる種が存在し、両エリアの魚種が混在する。
すなわち西カリマンタン州Ketapangを流れるパワン川、またジャンビ州を流れるバタンハリ川、僕はこの両河川を淡水魚類の分布や種を分ける上で非常に重要な水系と位置付けている。

このようなスンダランド時代や分布の話は、インドネシアやマレーシアの詳細な地理が分からない愛好家さんにとっては、なかなかとっつきにくいかもしれません。
今までにこのスンダランド時代の河川の話まで持ち出してアナバン議論をしたのは出射氏ただ一人でした。
しかし僕も出射氏も、どんなハイレベルな愛好家が出てこようが、たとえそれが研究者であったとしてもその考察に耐えうるだけの正確な産地情報を提供してきました。
採集人としては後追いされるリスクなどもありますが、そんな事は想定内だし些細な事です。それよりも皆さんが深い考察が出来るような素材と情報を提供する事を優先してきたのです。


さて・・・ここからが本題です。(今までのは何だったんだ?笑)
陸上を移動できない淡水魚、特にアナバンテッドなどはある特定の環境に適応特化して依存し、水に縛られ、河川に縛られ、そのことが種分化を促進してきたと言えます。
そこでちょっと思うのは、例えばリコリスグーラミィの生態上密接に関わっているクリプトコリネはどうなんだろうか?クリプトコリネもまた基本的には河川に縛られているハズである。

さらにブセファランドラはどうだろうか?
彼らは狭い渓流に入り込み、ほんの数百メートル隣の支流では種類が違っているほどである。思いっきり水に縛られ、河川に依存する渓流性サトイモである。
少し淡水魚と状況が違うのは、彼らの繁殖はColocasiomyia属(タロイモショウジョウバエ属)に依存しており、飛翔能力がさほど高くないとはいえ飛ぶことが出来るということだ。だから淡水魚よりは状況が複雑になる可能性はある。
だとしてもクリプトコリネやブセファランドラなど河川依存型のサトイモ科植物の分布や種分化は、このスンダランド時代の河川の影響を多少なりとも受けているのではないだろうか・・・?
実際、一部のクリプトコリネでこのスンダランド時代の影響がぼんやりと浮かび上がってみえるが、それは厳密ではない。

これはあくまで僕の一つの仮説であり、皆さんが考察するためのアイディアの提案でもあります。
僕が見つけていない何かの法則を皆さんが見つけるかもしれません。その報告を楽しみに待ちつつ、僕は採集人として正確で信頼できる情報をこれからも皆さんにご提供していきます。