クリプトコリネ仏炎苞は右巻き?左巻き?
クリプトコリネ仏炎苞の「ネジレ」話
去年の12月、東カリマンタン"Long bagun"でC.striolata2株(A,B株)を採集しました。
帰国して赤玉+ケト土+ピートの用土に植え込み。1か月ほどするとA株に花芽が上がってきました。
この仏炎苞を見て、これは?と思いました。
というのも仏炎苞下部は右巻きにネジレているにも拘らず、上部リムの先の突出した部分は左巻きにネジレています。
下の方では右巻きだったものが突如リム上部で左巻きになり、それがとても窮屈に見えたのです。
A株開花1回目:左巻き
さらに2週間後、A,B株共に新しい花が開花しました。
両株のネジレ方を見てみるとA株は1回目と同じく上部が左巻きに、B株は右巻きにネジレていました。
つまり同じ産地で採取した同種のクリプトコリネでも仏炎苞が左巻き、右巻きと個体によって違う場合があるという事です。
A株開花2回目:連続2回左巻き
B株開花1回目:右巻き
さて、ここで疑問が生じます。
A株が2回開花で2回とも左巻き、これは偶然?ランダムに咲いてるだけ?
確かにたまたまかもしれませんね、B株は右巻きで咲いてるわけですから。
実は僕、これを以前から疑問に思っていて現地でも観察してきました。
その観察結果からほとんどの種類、どの産地でもネジレる方向がどちらか一方に偏ってはいない事が分かってきました。
C.crispatula var. planifolia 中国、広西チワン族自治区 (同産地で左巻き、右巻きどちらも存在する)
C.fusca "Ketapang" 西カリマンタン州
ただ自生地の観察では個体ごとにネジレる方向が決まっているのか、または全くのランダム(同一個体でも右だったり左だったり)なのかは判別できませんでした。
しかしチャンス到来です!このストリオラータA、B株共に再び花芽が上がってきました。
微妙な光などの環境要因であることも考えられるので、このA,B株の配置場所を事前に交換しておきました。
A株3回目はどうなんだ!?
A株開花3回目:連続3回左巻き(最上部が若干怪しいですが^^;)
B株開花2回目:連続2回右巻き
おおっ!
なんとA株は3回連続左巻き、B株は2回連続右巻き達成です!
この状況を少し確率論で考えてみます。
「仏炎苞上部のネジレが左右同じ確率で起きると仮定した時、A株が3回連続左巻き、B株が2回連続右巻きだった。」(環境要因は一旦仮定から外しておく)
A株:3回連続左巻き
1/2 x 1/2 x 1/2 = 1/8の確率
B株:2回連続右巻き
1/2 x 1/2 = 1/4の確率
2株がこの状況になる確率は、1/8 x 1/4 = 1/32(3.125%)の確率
統計的な観点では有意性を判断する「有意水準」というものがあり、その基準になるのはそれぞれ5%、1%です。
5%の場合「珍しいが極端に稀ではない」レベル。
1%の場合「統計的に有意性がある」レベル。
今回の検証は100人がクジをひいたら3人は必ず当たることが確定している、というような確率論とは違います。例えるなら「2枚のコイン投げをして、1枚は3回連続で表、もう1枚は2回連続で裏を引く」という状況です。
植物という生き物がランダムな3%の確率を同一方向に引き当てるのはなかなか難しいと個人的には考えます。
さらにはB個体が3回目に開花した時、これが連続3回右巻きだった場合の確率は1/64(1.5625%)となり、「統計的に有意性がある」というレベルに到達します。
今回のこのストリオラータの花が、たった1~3%の確率なのに「A株は3回連続で左、B株は2回連続で右」のように同じ方向を引き当て続けている状況に「有意性」を感じるという事なんです。
これが賭け事であれば「そのコイン、何か仕掛けがあるんじゃないか?」と疑いたくなります。
そう、だから僕はこの状況を見て「個体特有の遺伝子の仕掛け」でそうなっているのでは?と疑っているわけです。
ラッキーだったのは、A株が左、B株が右とたまたま左右に振り分けられていて検証がしやすかったことです。(これこそ正に偶然)
しかしまだまだ足りません。これは一種のみの結果であって、今後も機会があれば他種でも検証し精度を高めていきたいと思います。
クリプトコリネを育成されている方も多いと思います。皆さんもクリプトコリネの花が咲いたら、鉢やタグに右巻きだったか左巻きだったか是非記録しておいてください。
もし個体によってネジレの方向が決まっているという事が確定的になれば、それは同種内での遺伝的多様性の一端が現れた結果だと言えます。
そして遺伝的多様性を持っている事こそが、自生地でも日本国内でもその「種」が健全に維持保全されるためには重要な事となります。
追記:A株、B株ともにさらに開花し、A株は4回連続左巻、B株は3回連続右巻きとなりました。
このような咲き方になる確率は1/128(0.78%)となり、「統計的に偶然とは考えにくく有意性がある」と判断できる1%の確立を切りました。
この2株のストリオはさらに開花が続きそうですが、今回確率が1%を切ったので、ここらへんで結論を出しましょう!
結論:クリプトコリネ(ストリオラータ)の仏炎苞の左右性は、個体特有の遺伝子特性である
A株4回目開花:4回連続左巻き
B株3回目開花:3回連続右巻き