ブセファランドラの実生ハイブリッド個体の取り扱いについて Part2

近年ブセファランドラは大変人気で、実生繁殖(種子からの繁殖)による増殖に取り組んでいる愛好家の方々もいらっしゃいます。
その中でも特に異種間の交配で得た交雑個体(ハイブリッド個体)の取り扱いについては多少注意が必要になり、実際そのような交配繁殖をされている愛好家の方々とも意見交換を重ねてきましたので、その辺りを書いていこうと思います。
このハイブリッドブセの話の難しいところはホマロメナなど基本一個体ごとの鉢管理とは違い、水上、水中、ヨーロピアン、タグを使用しないレイアウト水槽で育成するなど管理方法や考え方、知識量も人それぞれで非常に幅広いところにあります。


実生繁殖(異種間)
4.ある異なる二種の特徴を合わせ持たせたい場合には、異種間で交配させる実生繁殖という選択になる。
異種間交配で産まれた交雑個体(ハイブリッド個体)は、通常の同種内実生繁殖個体よりさらに個体差が幅広く出ることになる。二種の中間的な個体~どちらか一方の親形質に近い個体まで表現形は多様となる。
F1は雑種強勢となるが世代を重ねるにつれ遠交弱勢が現れる場合もある。(ハイブリッドブセ同士でF1以降の実生繁殖ができるかは不明)

まずこの方法でブリードする場合、生産された繁殖個体がどんなに多量であっても「これは全てハイブリッドである」という管理し続ける能力と場所(場合によっては廃棄処分)が必要になります。
ハイブリッドF1個体の表現幅は広く、どちらかの元親に見た目がほぼ同じだとしてもその遺伝子は確実にハイブリッド化しているので、これを原種と取り違えることは絶対に避けなくてはなりません。この管理を厳格にしないとせっかくの原種遺伝資源の域外保全も意味がなくなります。(←この意味はPart1を読んで下さい)
ブセファランドラはそもそも原種でも外見の似通った種類が多く、さらにハイブリッド種かどうか見た目で判断するのは困難で、子株となれば判別はほぼ不可能。原種(元親)を維持管理しているところにこれらを持ち込めば、タグ落ち、取違い、勘違いなどの事故も起きやすくなるでしょう。(もちろん原種のみでもこのような問題は起こりますので十分気を付ける必要があります)
管理するケースを完全に別にする、水通しは別々の日に行うなど間違いが起きないような予防的管理の対策を考えた方が良いでしょう。

またそれらの個体を販売、譲渡など流通させる場合には、明確にハイブリッド個体であることを表示、伝達するようにしていきましょう。
SNSでの注意啓発、販売する際の注意説明などショップさんの協力も不可欠です。
はじめに書いた通りブセを育成する方の層は幅広く、特に初心者の方がこれをどれだけ深く理解されるかどうか分かりませんが、少なくとも繁殖に取り組む側は原種とハイブリッド種の位置づけを明確に分けていくべきかと考えます。
ブセでもクリプトでも自然環境下でのナチュラルハイブリッドという例もありますが、長い時間をかけ自生地の土地環境、またその土地の虫媒にも適応した形の二種が混生し偶然的にハイブリッド化したものと、関係性の遠い種を人為的にハイブリッド化させたものとはまた意味合いが異なってくるでしょう。

そこでハイブリッド実生繁殖されている愛好家の方々と意見交換を重ね、流通させる際の表示についてはある程度の決まり事というか合意形成的なものが出来てきましたので、ここでご提案させていただきます!
基本の表記ベースは非常にシンプルでこれだけです!↓

Bucephalandra + "オリジナル名(コード名)" + hybrid

まずポイントはハイブリッド種であることが明確に分かるよう「hybrid」または「hyb.」と表記する事。(オリジナル名の中にhyb.表記も可)
そこへ追加情報として「♀親情報×♂親情報」などの交配情報を入れるかどうかはブリードする人の考え方次第となります。
オリジナル名の部分を栽培品種を表すシングルクォーテーションで囲わず「ダブルクォーテーション」を使うのは、現状ではハイブリッド個体がまだ栽培品種と呼べるほど均一で安定的ではないからです。
またチームボルネオの産地表記も栽培品種名ではないため「"Kayulapis"」のようにダブルクォーテーションで囲んでいます。

現在は自生地環境悪化、乱獲、輸入規制など様々な要因の中で、ワイルド個体をブリードして流通させることは必須となってきています。異種間交配が繁殖技術の向上に貢献していることは間違いなく、これが同時に原種遺伝資源の維持保全にも役立っていくでしょう。
ただ取り扱いを誤るとメダカやオオクワガタ、オオサンショウウオなどでも問題になっているような遺伝子汚染、遺伝子攪乱の危険性もはらんでいます。(生息域内か域外かの違いはありますが)
そのことを十分に念頭に置きつつ、さらなるステージに向けて取り組んでいきたいですね。