ブセファランドラの実生ハイブリッド個体の取り扱いについて Part1

昨今ブセファランドラは大変人気があり栄養繁殖、また実生繁殖(異種間交配含む)によって殖やすことを楽しむ愛好家も増えてきている。
自生地環境の悪化、乱獲、輸入規制など様々な要因を考えた時、ブセファランドラを増殖しそれを市場に流通させるのは必要かつ当然の流れであることに間違いないのですが、少々留意するべき点も出てくるのでその辺りを書いていきたいと思います。

ここで僕が書いていることには、現地の環境悪化でジャングルがものすごい勢いで消えていく現状で、今まで日本へ導入が無かった植物(主にサトイモ科)を国内へ導入し、その原種遺伝子を日本国内で維持していく(域外保全)という視点が含まれています。これこそ僕が採集人をやっている理由の一つでもあります。
一般的にブセを育成している方はそのような目的ではない方が大多数だと思いますが、出来ればそういった視点も持ちながら熱帯植物を楽しんでいただきたいというのが僕の願いです。
通常こういった域外保全は植物園などがその機能を担ったりします。しかし現状植物園にはあまり期待は出来ませんし、愛好家がしっかり維持していた方がよほど安全でリスク分散にもなります。

栄養繁殖:挿し木や株分けなどによる繁殖(組織培養含む)。基本的に増殖個体は元親のクローンなので親形質をそのまま維持できる。
実生繁殖:種子による繁殖。同一果実から採取した種子でも個体差が出る。大量繁殖に向いている。

まずこれらの各繁殖方法のメリット、デメリットを簡単に書きだしてみます。
ただこれら一つの繁殖方法にこだわる必要はなく、その状況、段階によって使い分けしていけば良いと思います。
栄養繁殖(株分け、挿し木)
1.栄養繁殖から得られる増殖個体は基本的に親個体と同一形質なので、ある特徴を持った個体の形質を完全に引き継ぎたい場合は栄養繁殖一択になる。ただ増殖のスピードはそれほど効率が良いとは言えない。
また原種の遺伝子保全という観点から見ると、仮に同一産地の同種ブセ100株を採取し日本で流通させた場合、その種内の遺伝的多様性は100通りであり、栄養繁殖で10000株に増やしても遺伝的多様性は100通りであることに変わりはない。

栄養繁殖(組織培養)
2.組織培養の場合も、ある特徴を持った種や個体の形質を引き継ぐという特徴は通常の栄養繁殖と同様で、さらに多量に繁殖させるのに向いている。多量に生産し流通すれば価格も抑えられ知名度、人気もさらに上がるかもしれない。マーケットを拡大するには良い方法だろう。
しかし元親として何株使用したかがその種内の遺伝的多様性を左右するので、域外保全を目的とした多様性を維持するにはいささか不足の感はある。
(少々極端な例え話ですが、仮にアグラオネマ・ピクタム10株を元親として組織培養しても、到底ピクタム種の遺伝的多様性は担保されません。葉表現は10タイプのみとなり、皆さんも満足出来ないでしょう)

実生繁殖(同種内)
3.栄養繁殖に対し実生繁殖では、同一個体内での受粉・結実によって得られる種子繁殖個体でも、ある程度個体差が出る。さらに同一種内の別個体をランダムに実生繁殖させていけば種内遺伝的多様性は飛躍的にアップする。これはまさに現地環境でブセとハエたちが繰り広げている事であり、遺伝的多様性を保持しながら域外保全を目的とするには最適な方法だと考えられる。
ただこの場合は個体差が出ることを良しとしているので、ある特定の特徴をもった個体だけを増やすことは出来ない。なので多くの実生繁殖個体の中からある特別な特徴を持った個体(例えばバリエガータの出現など)を抜き出すのであれば、その個体から栄養繁殖に切り替えるというのも一つの方法だろう。