アナバンにまつわる状況の変化
アナバンにまつわる状況を過去から将来にかけてステージ分けして考えます。
そのステージの状況によって出来る事、やるべきことは変化せざるを得ません。
ものすごくザックリ分けて僕は4つのステージに分けて考えています。過去から考えると一つのステージで10年くらいが目安になる感じでしょうか。もちろんきっちり分かれるわけではなくグラデーションになっているのは言うまでもないです。
また個別のケースを書いているつもりはありません、大局的な視点で見て下さい。
1.現地でほぼ無価値。外国人採集者がメイン。
僕が採集を始めた1990年代は現地採集人といえば西カリのアンジュンガンとスマトラのジャンビくらいしかいなかった。採集場所と魚種は限られ価格も安く、バイランティやチャンノイデスでさえ日本に輸入されたことは無かったのだから現地での資源的価値は無に等しかった。
私が魚を採集しているのを見ると「こんな小魚を採りに来たのか」とただ笑われるだけだった。だからこそ各地を回った外国人研究者、ハンターによって数々の新種がこの頃に発見されている。
火災や森林伐採による環境悪化、生息地の局地的消滅はこの頃から既にあった。
1990年代~2005年くらい。
2.日本の問屋が現地シッパー(エクスポーター)に注文しアナバン輸出が活発になる。
出射氏や僕のような個人ハンターによって新種や初入荷が次々と日本へ紹介されると、日本の問屋がインドネシアシッパーにそれらの魚を注文するようになり動きが活発になる。
個人ハンターは当初より系統維持を推奨していたので正確なロカリティを明記していたが、問屋便は大量採集でロカリティが不明確、曖昧なものも多かった。その中には現在となっては入手困難なものもあり、その種の情報を残すという意味でも惜しいことだった。
このステージ初期の頃には大規模な違法森林伐採は取り締まりなどによって減少傾向にあったが、油ヤシプランテーションや紙パルプのための商業植林などが台頭し生息地の環境はますます悪化している。
2003年~2015年くらい。
3.ネット通信網、流通網の発達で現地ハンターが現れ、利益を得られる資源として高付加価値を付け始める。
通信環境が良くなりインターネットが使えるようになると、自分たちの身近にいる魚が外国で販売されているのが一部の人に知られるようになる。今までの限られたインドネシアンハンターは島間を行き来しながら採集していたが、それぞれの場所での現地ハンターが現れ輸出シッパーに売り込むようになる。
FBなどで情報共有し一気に増えた現地ハンターによって「アナバンは利益になる天然資源である」という共通意識が高まってきた。
ハンターの意識レベルはまちまちだが、ロカリティをしっかり付けた方が高付加価値であることを理解するハンターも増えた。
逆に従来型の大量採集、大量消費、安価型の商業採集は、アナバンに関していえば現地個人ハンターの高付加価値型に押されつつある。顧客自体が不明確な産地や大量採集などを好まなくなってきている側面もある。
僕は現在がこのステージにあると考えている。
20015年~現在まで。
実際出来るかどうかは別として、この段階にきて初めて「現地地元ハンター」による生息地の保全という選択肢が生まれた。これが過去1~2のステージと決定的に違うところ。彼らがそれを「継続的に利益を得る資源」と認識すれば、農地や宅地転換と天秤にかけ生息地を守るという選択肢を取れる可能性が出てきた。もちろん個々のケースを考えればそれが出来るかどうかは場所や状況、資金力にもよる。個人の力で大企業の開発に勝てるはずもない。
僕が先にツイートしたのは、せっかく彼ら自身がアナバンを貴重な資源だと認識したこの段階でWCを否定すれば、現地ハンターが生息地への関心を失い保全する意味も可能性もなくなるかもしれないという事であって、CBを否定しているわけでは全くありません。
現在海外への輸出だけでなく、インドネシア国内でもアナバンの人気は非常に高まっている。現地ハンターの活動はインドネシア一般の人々に自国にこんな魅力のある魚が存在し、その生息地は今も壊され続けていると広報するのに一役買っていて、それが将来生息地保全の機運に繋がる可能性もある。
4.利益の有無に関係なく生物多様性の重要性が広く認識され、その生物が生存する権利を守っていく。
現在の状況はハンターという直接的な利益享受者がいて、ハンターたちが自分の利益のためにそれぞれの地元の生息地を小規模でも守っていくことを期待したもので、ある意味このステージ4に至るまでの移行期であり時間稼ぎでもある。
最近では全く輸出や販売もせず、ただアナバンが好きだという理由で独自に調査を進めているグループも出てきているし、またインドネシアの研究者たちも活発に調査研究に乗り出し成果を出している。その裏返しで外国人ハンターや研究者を排除しようとする動きもみられる。これはある意味仕方のないことだ。
インドネシア政府も生物多様性の重要性は理解しているだろうし、マングローブや湿地帯も守ろうとはしているが、一方で人口増加による開発は避けられない。
しかし近い将来、一般国民に生物多様性の重要性が広く認識され保護の機運が高まれば、一部のアナバンもタイのように保護対象生物に含まれ生息地が保全される可能性はある。
国際自然保護連合(IUCN)のリストには既にいくつものアナバンが絶滅危惧種また危急種に指定されている。今現在、問屋ルートで一般的に入荷している種類でもだ。現実、一部のアナバンは既に絶滅寸前まで追い詰められている。
ですので今後日本国内での「遺伝資源の生息域外保全」の重要性と必要性がますます増加するのは確実でしょう。
2024~?
今日突然に書き始めたもんだから、かなり大雑把ですがこんな感じです。
人それぞれ様々な考え方があって良いと思います。自分含め好きだからこその思い入れに影響されることもあります。
アナバン達にとって未来が良くなることを願って・・・。