ブセファランドラ・パールグレイの商標登録 Part4 C,D:「手続補正書」「意見書」

想定通り「拒絶理由通知書」が届きました。多くの人が拒絶理由通知書を受け取るようです。
ですので最初からどういう部分が拒絶されやすいか、意見書での反論を想定しておかなくてはいけません。
出願者が拒絶理由に反論できる唯一の場が意見書です。
もしこの意見書で反論しても「拒絶査定」された場合、登録はかなり難しくなります。残るは「拒絶査定不服審判請求」となりますが、そもそも二度拒絶されているのでハードルが高いです。
なので何としてでもこの意見書で自分の主張をねじ込み、審査官に納得してもらわねばなりません。
そこで事前に意見書の様々な実例を調べてみたのですが、まあ何といいますか、みな頭がこんがらがるような屁理屈合戦といった感じですね。笑
うちも例にもれず論理的な屁理屈を展開していきましょう。

まず商標制度がどういうものかもう一度確認します。
要約すると、商標制度とは商品などに付される目印の保護を定めることによって、その商品の出所を表示する機能、品質を保証する機能、広告機能を持たせることで、商標使用者の業務上の信用の維持を通じて、産業の発達、消費者の利益を保護しようというものです。
意見書はそれに沿うようなものでなくてはなりません。


ざっくりと前回の拒絶理由通知書で登録できないとされた理由
1.パールグレイ色をしたブセファランドラという品質(色)を表しただけで、識別力がないからダメ。

2.パールグレイは既に一般的に流通しているから、あなたがその名称を登録するのはダメ。

3.あなたに独占させると他の植物に「Bucephalandra Pearlgray」を使用するかもしれず、消費者が誤認する可能性があるからダメ。

4.そもそも区分第31類に指定商品「組織培養植物」は無いし、その範囲も明確でないからダメ。

これらに対する具体的な反論を意見書に述べていきます。
意見書全文。赤文字は当ブログ上での書入れです。
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【書類名】 意見書
 【提出日】 令和 4年 10月 18日
 【あて先】 特許庁審査官  殿
 【事件の表示】
   【出願番号】 商願2022-066373
 【商標登録出願人】
 【識別番号】520259124
   【住所又は居所】東京都国立市
   【氏名又は名称】季子 宏之          
 【発送番号】198386
 【意見の内容】

審査官殿は拒絶理由通知において、本件商標登録出願に対し、理由1として第3条第1項第3号及び第4条第1項第16号に該当し、理由2として商標法第6条第1項及び第6条第2項の要件を具備しないとの拒絶理由を示されました。
出願人は、本意見書と同日付で提出した手続補正書により、指定商品を補正しましたので拒絶理由は全て解消したものと思料いたします。以下にその理由Ⅰ~Ⅲを記載します。

Ⅰ.理由1「商標法第3条第1項第3号(品質等表示)」について
審査官は「Bucephalandra」は水草の名称であり、また「Pearlgray」は真珠色を表すもので、本願商標は商品の品質を普通に用いられる方法で表示したものと認識するとされました。これについて本願の商品の特性上丁寧に説明していく必要があります。

以下1.パールグレイは品質(色)を表しただけで識別力が無いからダメでしょ、への反論
基本的に「色」を表す言葉は登録できないため、色を表したものではないという事を主張していきます
1. 私はブセファランドラ属という日本で全く知られていなかった植物を海外で採集し、初期の頃から積極的に日本に紹介してきました。(2003年頃から)
そしてブセファランドラ属の“ある局地的な個体群”に対し「Pearlgray」と命名しました。私のブログに2011年当時「Pearlgray」と命名した由来などが記されています。

当時のブログに書かれている通り、私が当初このブセファランドラに命名したのはSilvergray(シルバーグレイ)でした。しかし最初の販売時にPearlgray(パールグレイ)と名称変更し販売を開始しました。
※当時これは自分で考えたオリジナルな言葉だと思っていて、パールグレイという色彩名があるとは知りませんでした。汗

「シルバー色の輝きは葉の表面にあるのですが、その輝きは非常に上品なので“パール”という方がしっくりきた」と当時のブログに書いています。私が命名した際に重視したのは色ではなく、葉表面の反射光の質についてです。ギラギラとした反射光ではなく、柔らかくきめ細やかな反射光の特徴を捉えた命名です。
また「葉の形もわりと丸っこい形をしていますので、余計にそのようなイメージを感じた」と書いており、反射光の特徴を表すだけではなく、葉形が真珠のように丸みを帯びていることにも由来しています。
※パールは審査官の言うような「色」ではなくパール様の光り方だと反論します。また葉の形がパールのイメージなのだとも反論します。実際そうですし。

それではグレイは何かというと、一般的なブセファランドラより葉色が黒っぽいことから来ています。このブセファランドラ・パールグレイを実際に観察した際の葉色は、濃緑色~黒緑色でありその上に一部シルバー色の反射光が確認できます。
しかしこれを一般の人(ブセファランドラの愛好家ではない)が見た際には、「これはパールグレイ色のブセファランドラである」と認識出来る人は少ないと思われます。
※グレイについては葉色がダークな「色味」を意味することは認めますが、初めてこのブセを見る人が「パールグレイ色の水草だね」とは認識できないと主張します。

前記したように私はブセファランドラという植物を海外で採集調査し、私の名前が冠された種類もあるほどです。この属の植物について日本で誰よりも精通していると自負しておりますが、私の知識をもってしても、ブセファランドラ属の植物で「Pearlgray」色の葉や花を持つものはありません。
※本当に文字通りの意味でパールグレイ色のブセがあるとすれば登録は難しくなります。それを否定するためにこの文章を入れています。
さらに自分の名が付いてるブセすらあると言って主張に説得力を持たせようとしています。この件に限らず意見書では必要なことです、遠慮はいりません。意見書は唯一の反論の機会です。(カラーコード参考↓このような色のブセは見たことないですね。)
PGカラー.jpg

多種あるブセファランドラ属の中でも、私が命名した「パールグレイ」のような特徴を併せ持つブセファランドラは希有で産地はごく限られます。
つまり本願において「ブセファランドラ+パールグレイ」の組み合わせは、審査官が述べられたような単に「パールグレイ色のブセファランドラ」を表すものではなく「1.反射光の質2.葉の形状3.葉色4.その特徴を持った局地的な個体群」という意味合いを全て内包し、それらイメージを総合して私自身が創作をして表現したものです。
※パールグレイとは単純な色彩の事ではなく「4つの要素」が組み合わされて出来ているオリジナル性のある名称であると反論します。

反対に色だけを表しているパールグレイという名称が付いた例を示します。
ここは自分の書き方が良くなかったと思います。品質等表示と品質等誤認の内容を混ぜてしまったので分かりづらいです。
2. 一方で、「Pearlgray」の名称が付いた植物をインターネットで調べると、以下のものがありました。これらは花や穂の色がパールグレイだと各HPで書かれています。
・ペラルゴニウム・パールグレイ
・ラグラス パールグレー(ドライフラワー)
これらの植物においては「Pearlgray」を品質(色)として使用しています。そこで、これら「Pearlgray」を品質(色)として使用している植物と、「Pearlgray」が品質(色)ではない本件商標出願を区別するため、また「ブセファランドラ」と「パールグレイ」は商品の特性上切り離して使用されることはないため、本出願の指定商品を「ブセファランドラ属の草,ブセファランドラ属の苗」(他省略)と補正いたします。
※ここが非常にややこしいところで、多くの人がここで躓くようです。
僕は特許庁の第31類項目の指定商品に書かれている通り「草,苗,花...」として出願してしまいました。しかしそうなると、もし当方が商標を取得した際にありとあらゆる植物に「Bucephalandra Pearlgray」と名付けることが出来てしまうからダメ、と解釈されるようです。
他の植物にブセファランドラという名称を付けるのは普通に考えたらおかしな話ですが・・・。
ただ実際パールグレイと名付けられた他の植物も販売されており、消費者が誤認する可能性もあるので出願の指定商品を「ブセファランドラ属」だけに手続補正すると宣言します。
下部「商標法第4条第1項第16号(品質等誤認)」の項目で詳しく書きます。

以下2.既に一般に流通しているからあなたが登録するのはダメでしょ、への反論
3. 審査官はブセファランドラのパールグレイがブセファランドラの一品種として一般に取引されている実情の例として別掲2を示されました。
その別掲2の1~3の例のうち、2は私自身のショップ「TEAM BORNEO」のウェブサイトです。
※出願人季子宏之のTEAM BORNEOウェブサイト(特商法に関する表示)http://teamborneo.com/order.html

また1「Aqua Studio 〇〇〇〇」と3「“Roots”」の例は、私がパールグレイを卸売した先のショップのウェブサイトであり、各見出しの「TB ブセ・パールグレイ入荷しました。」「ブセファランドラsp.パールグレイ(TB便)」の“TB”とは私のショップである“TEAM BORNEO”の略称で、私から仕入れた事を表しています。
※1「Aqua Studio 〇〇〇〇」および3「“Roots”」との卸売時のメール記録有り。

別掲2で示された3つの例全てが私の販売品であることからみても、「ブセファランドラ パールグレイ」が一般に多くのショップで取引されているとは言い難く、実際これを正規で取扱っているのは、日本で私のショップと私の卸先3店舗のみです。
※審査官が一般に流通していることを示す3例として挙げたのは、全てうちの販売品でした。
客観的な第3者である審査官が3例を出してきて、それが全てうちの販売品だったというのは、一般的に流通しているとは言い難い重要な根拠となります。これでかなり有利になりました。一気に畳みかけます。

さらに一般愛好家もこのブセファランドラ パールグレイの記事をツイッターなどにウェブ投稿する際には、その多くが「ブセファランドラ パールグレイ“TB便”」とことさら私“TEAM BORNEO”から入手したことを記載していて、この取引業界において「ブセファランドラのパールグレイといえば、チームボルネオが販売している商品である」という認識が定着している証左であると判断できます。
※愛好家さんがTB便と紹介してくださることが多いのは、うちが販売しているものと他の物を識別しているからです。(識別力有)

取引者、需要者の上記のような認識から、本願の指定商品を取り扱う業界においては「誰がどこで採集し、命名し、販売したか」が取引者、並びに需要者にとって重要な「産地保証の信用と価値」を持ち、ブセファランドラ パールグレイが単に「品質(色)を普通に用いられる方法で表示したもの」の範疇を明確に超え、ある意味ブランドとして確立されていると考えます。
※これは本来の商標法の目的である「出所の表示機能の保護、品質を保証する機能の保護、広告機能の保護」に沿っているものだと主張しています。

※またヤフオクのブセの平均落札価格と当方が出品したTBパールグレイの落札価格を提示し、それによってこの商標に識別力とブランド力がある裏付けとして主張します。
これを裏付ける例として、ヤフーオークションでのブセファランドラ平均取引価格は本日現在4083円ですが、一方、私がヤフーオークションに出品したブセファランドラ パールグレイは2022年8月の出品で25万2千円の価格を付けています。
※ヤフオク!においてのブセファランドラ平均取引価格
※ヤフオク!で私が出品したブセファランドラ パールグレイの取引ページ

ですので、仮に本願商標が「商品の品質を普通に用いられる方法で表示したもの」と判断されましても、上記のような需要者の認識から、本願商標は商標法第3条第2項「前項第三号から第五号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」とする規定に該当するものであると思料いたします。
※パールグレイに識別力とブランド力があると十分に主張したところで、商標法第3条第2項条文を出して攻めていきます。
当てはめて簡単に言うとこうなります。「仮にパールグレイが色を表すだけの商標であったとしても、その名称を出せば消費者がチームボルネオの商品だとイメージするなら、同項の規定にかかわらず商標登録を受けることができる」

4. 近年になり、ある特定の個体群に対して私が命名した「パールグレイ」の人気に乗じようと、一部業者が意見1.に示した特徴(反射光の質、形態、色)を持たない明らかに異なる個体群のブセファランドラをPearl gray(パールグレイ)として輸入販売する事例が起きており、本来の「ブセファランドラ パールグレイ」が欲しいという需要者に混乱と不利益を生じさせています。中には意図して詐欺的な販売を行っている場合もあり悪質です。
またそのようなものが大量に出回るようになれば、命名した私自身が「Pearlgray」という名称を盗用したのではないかと誤認される恐れがあります。
※ここでは商標法で保護されるべき「商標使用者の業務上の信用」「産業の健全な発達」「消費者の保護」が脅かされていると訴えます。

上記の意見1~4を総合的に判断すると本願商標をその指定商品にしてもこれに接する取引者、需要者はブセファランドラの品質(色彩)のみを想起することはなく、充分に自他商品の識別力を有するものと確信するものですから、本願商標は商標法第3条1項第3号に該当するものではありません。


3.あなたに独占させたら「ブセファランドラ・パールグレイ」の商標を他の植物に使用するかもしれないからダメでしょ、への対応
Ⅱ.理由1「商標法第4条第1項第16号(品質等誤認)」について
本願商標を指定商品以外に使用し品質の誤認が生じることを避けるため、指定商品を 「ブセファランドラ属の草,ブセファランドラ属の苗,ブセファランドラ属の花,ブセファランドラ属の水草,ブセファランドラ属の種子,組織培養によって栽培したブセファランドラ属の植物」と補正します。
これにより商標法第4条第1項第16号に該当することを解消できます。
※分かりやすく例えて言えば、指定商品を「野菜」、商標登録を「TBナス」とし、その商標をトマトに付けたら「TBナスというトマト」が出来上がり、消費者にとって分かりづらく誤認しますよね、っていう事かと思います。
ですので消費者が誤認しないよう指定商品の範囲を狭めなくてはいけないという事になります。詰まり指定商品は「野菜(草,苗...)」などの大雑把なものではなく「ナス(ブセファランドラ属の草...)」にしなければいけなかったのです。
そこで「手続補正書」によって出願の指定商品を「ブセファランドラ属の草,ブセファランドラ属の苗...」とすべて変更しました。
一般的には権利範囲は狭くなると言えますが、元々商標をブセにしか使う予定が無いので「指定商品」を変更しても特に問題はありません。ただそういう解釈をされていると分からないと、なぜ拒絶されているのかが理解できません。


Ⅲ.理由2「商標法第6条第1項(指定商品又は指定役務の表示が不明確)及び第6条第2項(区分相違)について
拒絶理由2について審査官は「組織培養植物」は内容及び範囲を明確に指定していないと判断されました。これに関しては「組織培養によって栽培したブセファランドラ属の植物」と補正いたします。
※上記同様、組織培養植物もブセファランドラ属に限定し補正します。

4.そもそも区分第31類に指定商品「組織培養植物」は無いしその範囲も明確でないからダメでしょ、への反論
また第6条第2項の区分相違の件ですが、近年園芸やアクアリウム・パルダリウムなどの植物取り扱い業界において、植物の一部組織を人工培地にて培養、栽培した組織培養植物、組織培養水草カップなどがごく一般に出回ってきており、ブセファランドラ属の組織培養品もインドネシアやタイ、インド、ヨーロッパなどから輸入されるようになってきています。
以下に組織培養植物が一般的に販売されている例としてウェブアドレスを記載します。

※特許庁の第31類の指定商品の分類を全て調べましたが確かに「組織培養植物」はありませんでした。
しかし実際にブセファランドラ属の組織培養植物が一般的に市場に流通している実例を提示します。
“ADA” という水草などの取引業界において有名なメーカーが「BIO水草の森」として多数の組織培養植物を販売。この中でブセファランドラ属の組織培養植物も販売している。

“Aqua Studio 〇〇〇〇” 「組織培養植物、組織培養ブセファランドラなど入荷しました。」の見出しの元、海外産のブセファランドラ組織培養植物を販売している。
https://〇〇〇〇-web.ocnk.net/news-detail/837

このような現状を鑑みますと「組織培養によって栽培した植物」は第31類の指定商品である草、花、苗などと同列に扱えるものと考えております。上記により商標法第6条第1項(指定商品又は指定役務の表示が不明確)及び第6条第2項(区分相違)は解消できるものと考えます。
※この部分の拒絶理由は非常に難解でしたが、現状生きている「組織培養植物」が出回ってきている以上、第31類にこれを指定商品として入れるべきだと主張します。
実際これが第31類に入ったのかどうか定かではありませんが、とにかく登録査定を受けたので拒絶理由は解消されたという事です。
もしかすると日本で初めて「組織培養植物」が第31類の指定商品として登録された例かもしれません。

誠にお手数ですが、再度ご審査いただき登録査定を賜りますようお願い申し上げます。
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意見書は以上です。
以下、意見書と一緒に提出した手続補正書です。
手続補正書.jpg
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